大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和61年(ヨ)2310号 決定

申請人

A男

B女

C女

右三名訴訟代理人弁護士

上田誠吉

青柳孝夫

被申請人

日本鋼構造協会

右代表者会長

稲山嘉寛

右訴訟代理人弁護士

梶谷玄

梶谷剛

岡正晶

深澤直子

渡辺昭典

主文

本件申請はいずれもこれを却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

理由

一申請人らの求めた裁判

1  申請人らが被申請人に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2  被申請人は、昭和六一年一〇月以降毎月二五日限り、申請人A男に対し三七一六八八円、申請人B女に対し三五一四三七円、申請人C女に対し三三一三二一円を仮に支払え。

二被保全権利について

1  当事者関係

本件疎明資料によれば次の事実を一応認めることができ、この認定に反する疎明はない。

申請人A男、同B女は、昭和四〇年四月二日、申請人C女は、同四一年一月一五日、それぞれ被申請人に雇用され、被申請人事務局職員として勤務してきた。

被申請人は、昭和四〇年三月一七日に設立された、公益・非営利目的の法人格のない社団であつて、その概要は次の通りである。

①  目的 会員相互の協力によつて、鋼構造に関する技術の向上をはかり、もつて鋼構造物の発展普及を促進することを目的とする。

②  会員 協会員としての会員は、構造用鋼材の製造、鋼構造物の設計・加工・建設・利用等の事業をおこなう法人(第一種正会員)と、個人でそれらの事業をおこなうもの及び学識経験者(第二種会員)によつて構成され、現に製鉄、鋼材、鉄鋼、造船、機械、建設、設計、防蝕、電力、商社などの企業一三〇余社、大学・研究所の学者・研究者一六〇余名が会員である。

③  事業 研究調査及び総合連絡、会誌、図書の発行、講演会、講習会、見学、視察などの実施、技術教育の振興、技術指導、鋼構造物の設計・施行に関係ある規準・規定等の整備の促進、業績の表彰等

④  役員 会長、副会長、評議員、理事などからなる。会長は評議員が選出し、会を代表する。評議員は正会員から選任される。理事は正会員のなかから会長が選び、評議員の承認をえてきめる。

なお、昭和六一年四月二五日の評議員会において、昭和六一、二年度の会長として、稲山嘉寛が重任された。

⑤  総会 評議員会、理事会からなり、総会は最高決定機関である。理事会は会務の執行にあたる。

⑥  事務局 事務局は会務の処理にあたり、職員の任免は理事会の議を経て、会長がおこなう、なお、本件仮処分申請時の事務局の構成は、事務局長一名、同次長一名のほか職員七名がおり、うち三名が本件仮処分の申請人である。

2  申請人らに対する解雇の意思表示

本件疎明資料によれば、被申請人は、申請人A男、同B女に対しては昭和六一年七月三〇日、申請人C女に対しては同月三一日、いずれも事業縮少を理由として同年九月一日付をもつて解雇する旨の意思表示をなした(以下「本件解雇」という)ことを一応認めることができる。

3  本件解雇の効力

本件解雇は整理解雇の事案であるので、以下においては本件解雇の必要性の有無、本件解雇回避措置の有無、本件解雇基準及び被解雇者の選定の合理性の有無及び本件解雇手続の適法性の有無の四点につき申請人らの主張に沿つてその効力を判断することとする。

(一)  本件解雇の必要性の有無

被申請人は、本件解雇は被申請人が存続していくために不可避的措置であつた運営改革の一環としてなしたものである旨主張し、申請人らは、本件解雇は被申請人にとつてやむを得ない経営上の緊急の必要性がないにもかかわらず申請人らを狙いうちにした不当きわまりないものである旨主張するので、以下、本件解雇の必要性の有無について検討する。

(1) 被申請人の設立の経緯

本件疎明資料によれば次の事実を一応認めることができ、この認定に反する疎明はない。

鋼構造物は、昭和三〇年代後半のわが国諸産業の著しい躍進とともに、鋼材材質の改良、生産の拡大により、建築、土木、橋梁等の分野において急速な発展を遂げつつあり、特に産業構造の変革に伴う巨大化傾向は注目されるところであつた。しかし、当時、技術面、需要の実体の掌握等において不十分であつたため多くの問題が生じていた。そこで、構造用鋼材の使用者・製造業者、学識経験者相互間において十分な意見交換等が行われ、緊密な協力によつて所要の調査・研究が促進され、対策が講じられることが必要であつた。そこで、鋼構造関係各界の協力を実現するための共通の場として被申請人が設立されることとなつた。そして、この設立とともに、鉄鋼メーカー、鋼材使用者など鋼構造物に関係のある各業界の代表的会社四〇社(第一種正会員)、学識経験者など個人六九名(第二種正会員)、公団・公社・学協会三二団体(特別会員)が被申請人に入会し、活動を開始した。

(2) 被申請人の経済的基盤

本件疎明資料によれば次の事実を一応認めることができ、この認定に反する疎明はない。

被申請人の経済的基盤は会員の年度毎の会費によつて賄われており、設立当時の年会費は第一種正会員が一口五〇万円、第二種正会員が一人一万円であり、第一種正会員四〇社で一一一口の加入があり、その中で中心的存在であつたのは鉄鋼メーカー九社で五五口とその約半分を占めていた。

(3) 運営改革に至る経緯

本件疎明資料によれば次の事実を一応認めることができ、この認定を左右するに足りる疎明はない。

被申請人が設立された昭和四〇年当時は、まさに我が国の高度経済成長期にあつて、民間設備投資需要も旺盛で、いわゆる重厚長大産業中心の産業構造にあつた。被申請人は、このような産業構造の背景の下に会員の求めていた鋼構造物の調査研究に取り組み一応の成果をあげ、会員の期待に応えていた。

ところが、昭和四八年第一次オイルショックを契機に重厚長大産業は構造的不況に陥り、新規事業への進出・展開を余儀なくされ、重厚長大産業中心からエレクトロニクスを中心とする軽薄短小の産業中心へと産業構造も変化した。このような産業構造の変化とともに、昭和五〇年ころには鋼構造物に対する調査研究も既に一定水準にまで到達し普及するようになり、産業界が求めるより専門的体系的な調査研究については社団法人鋼材倶楽部等他の学協会が積極的な活動を展開するようになつた。また、各企業間の競争も激化するようになつて各企業が自ら開発した技術を企業秘密として外部に発表するようなことはしなくなつた。このようなことから被申請人の委員会活動も極めて低調となつた。被申請人の会員数をみても、昭和五四年までは増加傾向にあつたが、同五五年以降頭打ち状態となり、活動の根源となる会費収入もこれ以上の伸びを期待することができなくなつた。このような状況の中で会員の間から被申請人の活動内容について屋上屋を重ねる組織であつて期待に応えていないなどの批判が寄せられるようになつた。このようなことから、被申請人としてもこれらの批判に応えるべく種々の改革をせざるを得なかつた。これらの改革は次のとおりである。

① 職員の新規採用の中止

被申請人は、昭和五五年二月に職員一名を採用したが、これ以降新職員を採用しないこととし、昭和五七年末に小平、植木がそれぞれ定年高齢で退職したが、その補充を行わず、在職職員で仕事の効率化・合理化により対応してきた。

② 委員会活動の充実・活性化

被申請人は、昭和五七年七月、元本州四国連絡橋公団設計部長浅間達雄を事務局長に迎え、同五九年一一月、新日本製鉄株式会社から日野啓佑を事務局次長に迎え、この両名を中心として運営検討小委員会の設置、第一種正会員の協議の場としての部会制度発足など委員会活動の充実・活性化の努力をした。

③ 諸経費の削減

被申請人は、出張旅費、電話料、交通費等を節約し、職員の年間給与を公表して、給与・退職金の適正化の端緒とし、経理処理などの合理化・効率化のためOA機器を導入して経費削減に努めた。

(4) 運営改革

被申請人は、昭和五五年以降、右に述べたように種種の運営改革をしてきたが、昭和六〇年秋以降の急激かつ大幅な円高によつて、我国の産業界、特に被申請人の第一種正会員の中心的存在である鉄鋼・造船業界が極めて深刻な大打撃を受け業績が急激に悪化して史上最悪の中間赤字決算をする事態となつた。このため各企業は生き残り策として次々と大幅な設備廃棄、人員削減等を打ち出した。

右のような大打撃を受けた各会社は、自らの従業員の人員削減を実施する他、不要不急の出費をカットするという生き残り策の一つとして、最近第一種正会員のニーズに合致した活動をしておらず(お付き合いで入会しているだけと広言する会社も多くなつていた)、かつ会費が年間六〇万円という非常に高額な被申請人に対する会費支出の削減を実行しはじめた。すなわち、昭和六一年四月には、大阪製鉄(一口)、神鋼建材(一口)、松村組(一口)が脱会し、かつ鉄鋼大手の一つである日本鋼管が二口の減口をし、造船大手の日立造船も一口の減口をしたため、一挙に六口の減口が行われた。そして特に日本鋼管の減口を受けて、鉄鋼メーカー各社が減口、脱会あるいは一口の会費額の減額、分納分の会費支払の停止等を強く被申請人に申し入れてきた。さらに、右のような脱会等の申し入れは、鉄鋼メーカーに限らず、造船、商社など他の業界からも二〇口以上寄せられており(日立造船、石川島播磨、兼松江商、住金物産、四国電力、日鉄建材工業、川鉄鉄構工業など他多数)またこれら具体的に脱会等の申し入れをしている会社の他にも、潜在的に他社の動きを見ながら脱会等を検討している会社も多い。

そこで、被申請人は、被申請人が存続していくためには会員の要望に応じた活動をする以外にはないと考え、昭和六一年当初から浅間事務局長及び運営委員長を中心に右活動をするための運営改革案を検討し、昭和六一年六月一二日開催の昭和六一年度第一回運営委員会において、被申請人の組織、活動範囲を、その根幹は維持しながら最大限に縮少する方針のもとに、次のような機関誌の休刊、人員削減等の運営改革を了承し、更に最高決議機関である理事会に諮ることとし、同年七月七日開催の昭和六一年度第一回定例理事会において、右運営改革案が決定され、後述のとおり実施された。

右運営改革は次の六点からなつている。

① 機関紙の休刊

機関紙は、研究報告等の協会情報を会員に伝達することを目的として毎月発行し、事業費の約半分近くを占めていたが、その内容につき会員の要望に応えることができない状況となつていたので、休刊(但し、発刊の予定はない)することとし、技術的研究的委員会活動が中心となる被申請人の活動につき、その研究成果を約四半期毎に印刷物にして会員に配布することとした。これにより従前の機関紙発行費用の約三分の二を削減することができる。

② 大会、表彰選考及び研修講習等委員会の休止

右三行事とも被申請人設立当初はその存在意義もあつたが、その後は単に慣例的に行われているにすぎず、その存在意義がなくなつたので、事務の簡素化のため休止(但し、復活の予定はない)することとした。

③ 関西、東北委員会の休止

少数の第二種会員中心の集まりで、第一種正会員の発言も少なく、活動がマンネリ化し、事務局の負担が大きく、これに要する人件費等の費用も多額なので、休止(但し、復活の予定はない)することとした。

④ 鋼構造物需要調査委員会、鋼構造物災害調査特別委員会の休止

鋼構造物需要調査委員会については、部会段階で討論することにより、より広域的な活動が期待できることから、鋼構造物災害調査特別委員会については、迎合的な色彩が強く、成果が局部的であり、他の学協会とも全面的に重複することから休止(但し、復活の予定はない)することとした。

⑤ 人件費の節減

以上の①から④までの運営改革により被申請人の組織・活動内容も大幅に縮少することとなるので、事務局長、事務局次長以外の職員七名のうち必要人員は三名、すなわち、委員会担当の職員二名と経理担当職員一名で運営することができ、四名は過員となる。

⑥ 被申請人事務所の移転

借室料の軽減を計るため被申請人事務所を移転する。

(5) 本件運営改革の実施―本件解雇の実施

本件疎明資料によれば、被申請人は、右運営改革策定後右⑥を除きその実施に着手したこと、本件解雇は右⑤に基づきなされたものであることを一応認めることができ、この認定に反する疎明はない。

(6)  当裁判所の判断

右認定事実によると、本件運営改革は、被申請人の活動が設立当初と比較して会員の期待・要望に応えることのできない組織体となつており、会員からもその点についての批判が強く寄せられていたところ、昭和六〇年秋以降の急激かつ大幅な円高によつて主力会員が深刻な経営危機に陥つたことを契機に被申請人に対する不満が一挙に脱会等の行動に出るに及び、被申請人は存立の危機に直面し、そこで、この事態を回避するために緊急かつ不可避的な措置としてなされたものであつたということができる。してみると、本件運営改革によつて事業部門が縮少される以上、この部門担当職員は余剰人員とならざるをえないのであり、被申請人のように会員の会費を経済基盤としている公益、非営利目的の社団にあつては営利企業のように他にその事業活動を展開することもできないのであるから、余剰人員を解雇対象者とせざるをえないのも必然的な措置であつたということができる。

申請人らは、本件運営改革による事業縮少は被申請人の事業活動に対する基本的認識に誤りがあり、不要不急と称して縮少の対象にあげた事業は全くその合理性が認められない旨主張する。

しかし、本件運営改革による事業縮少は、右に述べたとおり、会員の要望・期待に応えてこそその存在意義の認められる被申請人がその事業活動を会員の期待に応えるがためになしたものであり、必要不可避的な措置であつたということができるから、申請人らの右主張は被申請人の置かれている状況を弁えず、本件運営改革の意義を理解しない独自の見解に基づくものであつて採用することができない。

申請人らは、昭和六一年度の会費収入減は実質四口、二四〇〇万円の減で、財務上人員整理の必要性は全くなかつた旨主張する。

しかし、本件運営改革の意義は前述したところにあるのであつて、財務上の問題は、無視することはできないがこれに重点があつたのではなく、そもそも会員の支持を失えば被申請人の存続意義は失われ存続不可能となることは明白であるから、財務上の観点から本件運営改革、これに基づく本件解雇を批難する申請人らの右主張は一面的な見解であつて採用することができない。

申請人らは、被申請人は昭和六二年一月二七日の理事会で第一種正会員の会費を一口六〇万円から四〇万円に減額する旨決議した(これにより収入減は一口六〇万円の九六口分に相当する)が、このことは、昭和六一年度収支決算はもとより、引続く同六二年度収支予算案の見込みで、会計処理上も、また会員にも説明し難い多額の剰余金が生じてしまうことを偽装するため、財務上何としてでも被申請人の収入に九〇口ないし九六口分減相当の収入減を現出させて、本件運営改革及び本件整理解雇を収支予算において既製事実化しようという企てによるものであつた旨主張する。

しかし、本件運営改革の意義は前述したところにあるのであつて、被申請人が昭和六二年一月二七日の理事会で第一種正会員の会費を一口六〇万円から四〇万円に減額する旨決議したことは申請人ら主張のとおり本件疎明資料により一応認めることができるが、このことが申請人ら主張のとおりの意図・目的の下になされたものであることを認めるに足りる疎明はないから、申請人らの右主張は採用することができない。

(二)  本件解雇回避措置の有無

申請人らは、被申請人は本件解雇回避義務を尽しておらず、本件解雇を回避すべき有効な手段として、第一に現在の事務室を半減して借室料の節約を図るべきであつたし、第二に増室保証金等引当金の取崩しをなすべきであつた旨主張する。

しかし、本件運営改革による事業縮少は被申請人が存続するために必要不可避的措置であつたことは前述したとおりであり、公益・非営利目的の被申請人が本件運営改革に代る適切有効な措置をなすことができたかは本件疎明資料上これを窺い知ることができない。

申請人らの主張する右二点のうち、第一点の事務室の半減案は、本件疎明資料によれば被申請人がその活動を維持するために必要な事務机、椅子、応接セット、書架、ロッカー等の備品、調度品等を納めるには現在の事務室と同程度のスペースが是非とも必要であることが一応認められるから、現実的な提案であるということができず、増室保証金等引当金の取崩し案は、本件疎明資料によれば将来の諸経費の値上り等に備えて確保しておくべき資金であることが一応認められるから、実現可能なものであるということはできない。

したがつて、申請人らの右主張は採用することができない。

(三)  本件解雇基準及び被解雇者の選定の合理性

申請人らは、本件解雇は明確な解雇基準が設定されず、被解雇者の選定は恣意的意図的になされた旨主張するので、以下、この点について検討する。

まず、本件解雇基準についてであるが、本件疎明資料によれば、被申請人は、本件解雇基準として基本的には縮少事業部門担当者とし、これに従前の勤務状況、被申請人に対する貢献の度合、今後の期待度等を考慮して行うこととしたことを一応認めることができる。

申請人らは、その報告書中で本件解雇は申請人らを差別的意図的に排除するために設定されたものであるとか、男女差別を理由とするものであるなどと陳述するが、これらはいずれも被申請人提出の疎明資料と対比して信用することができない。

他に右認定を左右するに足りる疎明はない。

してみると、本件解雇基準はそれ自体に何ら不合理な点はないということができる。

したがつて、申請人らの右主張は採用しない。

次に、本件被解雇者の選定基準についてであるが、本件疎明資料によれば次の事実を一応認めることができる。

申請人A男は、被申請人設立当初から総務・経理を担当していたが、経理処理をみてもいわゆる後追い記帳が常態化し、出金管理が杜撰であるなど被申請人の制定した経理規則に従つた処理をしていなかつた。申請人B女は、被申請人設立当初から総務等を担当していたが、上司の指示に従わないことが多かつた。そこで、浅間局長は、昭和六〇年八月の人事異動で右両名を運営改革に伴い活動を停止した大会委員会の鋼材カタログ委員会等の委員会運営事務を担当させることとしたのであるが、両名は、委員会業務への積極的な取組みはみられず、仕事の内容としては通信事務・資料整理といつた庶務的事務をなしていたにすぎず、活動内容の協議など委員会業務の本質的部分は浅間事務局長が担当し処理していた。

申請人C女は、被申請人創立直後の昭和四一年から委員会事務を担当し、講習会、定期刊行物等に携わつていたが、遅刻も多く勤労意欲に欠け、事務処理能力も劣り、他の職員の助力を受けている状況であつたので、浅間事務局長は、昭和六〇年八月の人事異動で申請人C女を鈴木職員の下で会計・経理の補助事務を担当させることとした。しかし、申請人C女は、職務に対する積極的取組み姿勢に欠けていた。

他方、申請人以外の職員の勤務実績、態度等をみるに、申請外藤原貫次郎は、申請人らと同様本件運営改革により解雇となり、当初申請人とともに本件申請に及んでいたが、その後その申請を取下げたので、勤務実績等について言及しないこととする。

右以外の職員のうちで、申請外服部は被申請人創立当時からの職員であるが、過去に事務処理上の不肖事もおこさず誠実に勤務し、技術的知識も豊富であり、被申請人生え抜きの人材として欠かせない。申請外鈴木は、OA機器(特にパソコン)を使いこなす唯一の職員であり、被申請人の経理その他の事務処理を一手に引き受けている。申請外寺尾は、一二年間きわめて誠実に勤務し被申請人の細かい庶務をよくこなしており、協調性も充分である。このようなことから、以上の三名の職員については、被解雇者に加えることは被申請人に大きなマイナスとなる。

申請人らはいずれもその報告書において多大の勤務実績を上げ、積極的に勤務に励んだこと等を縷縷陳述するが、これらは被申請人提出の疎明資料と対比して過大な自己評価であつて信用することができない。

右認定事実によると、申請人らが本件運営改革による解雇対象者として選定されたことは申請人A男、同B女は本件運営改革による事業縮少担当者であつたこと、申請人らはいずれも劣等な勤務態度にあり、勤労意欲に著しく欠けていたこと等から本件解雇基準に合致したものであり、何ら不合理な点はないということができる。

よつて、申請人らの右主張は採用しない。

申請人らは、被申請人は昭和五八年以降不法不当に差別処遇し、同六〇年に運営改革で縮少対象事業部門に担務替として、予め過員としたうえで本件解雇をなしたものである旨主張する。

しかし、申請人らの右主張は本件疎明資料のうえでこれを認めることのできない一方的な偏見に基づいたものであつて採用することができない。

(四)  本件解雇手続の適法性

申請人らは、本件解雇は定款一六条(職員の任免は、理事会の議を経て、会長が行う)に定める理事会の議を経ることなく行われたものであるから同条に違反した違法なものである旨主張する。

しかし、本件疎明資料によれば、昭和六一年七月七日の昭和六一年度定例理事会において本件運営改革の原案がそのとおり議決され、人員削減についてはまず希望退職を募り、その申出がない場合は四名を解雇すること、その人選については会長に一任する旨議決されたことを一応認めることができるから、申請人らの右主張は採用しない。

三以上のとおり、本件解雇は有効であるから、本件申請はその余の点につき判断をするまでもなく被保全権利を欠き理由がないということができ、事案の性質上保証をもつてこれに代えることも相当でないからいずれもこれを却下することとし、申請費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官林  豊)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例